用途:住宅
構造:木造+RC造
竣工:2013
『風土の中』
社会制度や温熱環境の枠組みを超えて、体が感じる根源的なことまで設計の射程に入れたいと考えている。
水のせせらぎ、風の揺らぎ、木々のざわめき。人が心地よさを感じる環境。それは人間の原初の頃からの記憶であり、生物にプリセットされた環境コードだといえる。
本計画では、田畑が周辺環境をつくる風土の中、比較的年中温暖な紀伊半島の気候特性を享受し、いかに郷土の自然と五感で繋がる住空間を実現するかを考えた。縦直径12,714kmの地球の上、北端から南端まで3,328kmの長さに伸びる日本列島には、断熱性能に区分けされた基準のみでは測ることのできない、自然の恩恵と厳しさがあり、住まいにおける生活領域も、地域の気候特性によりさまざまな相がある。ここでは将来的に大きな周辺環境の変化が考えにくい、疎地域における住環境を検討した。
住居内において暮らしと自然の折り合いをつける調停者として、樹高7mのアオダモの木を屋内中心に根付かせた。
このバッファー部分には鳥、蜘蛛、蛾、蝶、蛙、ミノムシなども住んでいる。雨、風、光のない空間では木や生き物は死んでしまうが、人間もあるがままの自然の下では生きていけない。生活の中心にある生きた樹が、自然要素のからまりしろとなり、生活環境と自然環境が混ざり合う汽水域をつくる。
居室は1階にあるみんなの部屋1の8帖間以外、4.5帖程度の小さな部屋の集まりとし、それらを鳥の巣のように立体的に積み上げることで木々の気配と光、風を全体に導く構成とした。
採風はこの地域の夏季卓越風が吹く東面と南面にエキスパンドメタルの窓で開き、対して冬季強い山颪がふく西面はガラスを持つ窓を設え、風土の気候特性にあわせ開口を計画した。
毎年通る台風の折は、エキスパンドメタルの開口部に合板をはめ込んで備える納まりとしている。
夏季は木の蒸散効果と、開口が導く水田からの卓越風で涼を得る。冬季は木製建具で暖房部を区画する。季節に合わせて建築の気積を伸縮させることで生活と風土を応答させた。
常時抜けている天窓は木々に雨を落とし、屋内に木漏れ日のまだら模様を描く。紀伊半島において、風土と調停する住まいとした。
この住まいに住み始めて6年が経った。以前よりも四季の巡りを感じ、愛でている。エアコンはまだない。もちろん生命活動を脅かす環境を除いてだが、生物は最快適な温熱環境でなくても、日々、季節に適応する能力を備えている。
photo katsushi kawai
新建築住宅特集 2019年8月号
Lives 2014 AUG-SEP No76
architecturePhoto
NAGI 2013年秋 54号
日本建築家協会東海住宅建築賞2014 審査員特別賞
日本建築家協会第19回環境建築賞2018 優秀賞