下出江の家

用途:住居+WORK
構造:木造
竣工:2023

多気町の豊かな景観を住まいにとりこむべく、1階2階とも四方にシームレスな開口をつくった、ワーキングスペースを持つ住居.
視線の抜けと、身体を委ね、落ち着きをつくる壁のバランスを検討しながら居場所をつくった.
南側には太陽光パネルがあるため小上がりソファ床の場とし、中央の居場所に溜まりをつくり、テーブルに腰掛けた際に目線のカバーとなるように計画した.

小さな住宅ながら、廊下のない回遊性のあるプランと四方の抜けが人の知覚を拡げ、床面積を感じさせない.
プラスターボード張っぱなしの素朴でシンプルな同形状四面プランが時間の流れ、四季の巡りを顕然させる.

それぞれの方位に植えられた樹木が郷土の緑と重なり、近景、遠景がさらにつながっていく.
この場所が住まい手にとって世界の起点となり、拡がりとなるように.

「敷地は三重県、茶畑と山間に囲まれ、建築基準法上は都市計画区域外である。

牧歌的で豊かな景観がのびやかに広がる一方で、近年、周辺の休耕地は太陽光発電パネルがゲリラ的に増殖し、現況のような住環境をコントロールできない危うさを常にはらんでいる。
この地域で育ち、この郷土を愛する若い夫婦に元来あった環境を享受できる住まいをつくりたいと思った.
都市部に見放され、見て見ぬふりをされているような我々の地域の現代の問題に、この美しい風土が侵されていくことに立ち向かいたい.

周囲に拠り所のないこの敷地に、隣地にはメガソーラーが並ぶ。
むこう20年は動かない風景の固定化である。

大型太陽光発電パネルから隠れながらアンカリングをすべく、敷地に十字のプランを打ち込み、入隅、出隅の交点を風景に開放した。
壁面の交点が途切れることで風景と生活、認識と領域に流動がおこる。
今後読めない周囲の変化に対して、庭の改変(環境のコントロール)により対応しながら住環境を守っていけるように、室内空間は適度な壁面を残しながら適所に開放をつくり、居場所とつながりを併存させた。

かつての集落に住む人々が背後に拡がる山に対して、生活の糧としての山と未開の山という、里山、奥山といった認識を分けた概念を持っていたように、住居空間に内なる庭(住まい手が手を入れることができる庭)と、風土としての庭(奥庭)というレイヤーを重ねた。
造園計画では、自然な目隠し壁や植栽で太陽光パネルを見切り、
野原、茶畑、周囲の木立、近くの墓地の桜並木、里山も含めて遠庭と見立て、層状に景色を重ね、敷地環境を住環境に取り込んだ。
この場所が風土に溶け込み、また住まい手にとって郷土を愛する拡がりの基点となる。 」

Photo stir Shogo Yamazaki

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