豊浜の家

用途:住居
構造:木造
竣工:2024

敷地は伊勢市を流れる宮川と外城田川がつくる三角州にある。
四方に川、海、山、田と豊かな景観が広がる。
一方でこの地域は2017年の台風21号により1.5m程度の浸水被害があり、夜間あっという間に水位が上がった恐ろしい状況であったことから、就寝中の被災対策を主眼に置き、家族全員の寝室を2階にリフトアップし、1階は土間とつながる諸室を配した計画とした。

我々が活動する地域では、都市部に比べ、敷地にゆとりがあることが多い。本計画地も建て主が祖父から受け継いだ農地を転用し、宅地化したものであり敷地が広い。
今も周囲の集落には、ゆとりのある敷地に住居、倉、農具小屋、便所、浴室などを分散配置した形式の住まいが並ぶ。この形式の由来は、家畜との同居、肥えの処理、疫病対策、火災時における財産保護のリスクヘッジなどの知恵の継承といった背景がある。
この形式に簡素で大きな屋根を掛けることで、現在から今後の使い方に自由度を持った建ち方があらわれる。
プランは、2730mmグリッドで立てた柱を取っ掛かりに組み立てた。
今後の建て増しや使い方の変化があった際には、既にある柱と屋根が計画に容易さを与える。
また、柱が内外を横断しながら等間隔に林立することで、内外双方向に知覚の拡がりを生む。

建築を構成する素材は、周囲の農業用建築物に倣った廉価な工業用素材をサルベージしたが、この選択はコストコントロールだけがその所以ではない。
コストとは実務において切実さを孕む一方で、全国共通の強力な論理ではなく、建材、人工は地域によって異なり、時代によっても変化する指標のようなものであり、建築を構成する要素の一つに過ぎない。
建築を構成する要素(周辺環境、素材、使い手、経済動向)は常に変数である。
建築が農村地域にとって現在性を持ちつつも、移ろいでゆく状況に応じてその在り方を適応させていける軽い形に相応しい素材を選定した。
諸々の要件から引かれたグリッドを下敷きに、建築自体が変数たりうる柱と屋根を拵えた。

photo Kenichi Suzuki

新建築住宅特集2024.11月号

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