用途:住居
構造:木造
竣工:2023
クライアントと初めて設計打合せをした際の箇条書きは以下であった.
〇光が苦手なので自分の生活スペースは絞った光量を希望.
○人生と共に集まってくる好きなものたちを楽しみながらレイアウトしていきたい.
〇両親と同居するが、1階に配する父と母のスペースは用途分離できる構造としたい.
と大きく三点のご要望をいただいた.
高齢に差し掛かっているご両親のスペース(1階)と毎日仕事で帰りが遅い編集者であるクライアントのスペース(2階)との関係と、今後の可能性を含めたプランを検討した.
建築の使い方と空間認識を『ルートと選択』というキーワードに置き換え、1階・2階とも同モジュールを反復させたプランとした.
ひとは視覚以外でもモノを視る.感じる.
まだ見えない反復の向こうは奥行きを持った想像の先へとつながっていく.
目線の先、頭の中双方にかきまぜられながら空間は増幅し、拡がっていく.
モジュールは定尺寸法910の倍数である芯々1820mmでは窮屈であると感じたため、1935mmとした.
胴縁と仕上げを足すと部屋内寸法が1820程度となり、小さな市販ベッドが納まる.建主家族が足を伸ばして就寝できる寸法であり、3x6板の材料を切ることなく目一杯使えるサイズでもある.
1階は当面の予定用途と今後の可変可能性から容易にバリアフリー化できるスーパーフラットな大きな1室とし、十字型に仕切られた垂れ壁の下を自由自在に走る建具により、自由に部屋割りつくることができる.
白い室内に光がまわり、全体的な印象もフラットである.
今は個室に分かれている1階は大きな一つの部屋にすることができるし、また将来的に、1階だけを誰かに貸し出すこともできる.
今後の選択肢を担保していけるような玄関の場所、部屋割りを検討した.
2階は設計を依頼した建主のスペースである.
既に手持ちの家具は原色を多用したものが多く、それらの背景となる色(補色)として朱色を選定した.(設計初期からのクライアントの強い要望であった)
2階は南面から最北の寝床に向けて段状に上っていく.
南面に穿った大きな開口からはいった光が、北に向かうにつれて狭まっていく.開口に絞られ、奥へと行くにつれてだんだんと闇が滲んでいく.
同プランの反復が、光の在り方、天井高の差異をつくり、ひととモノの居場所をつくる.
経路は幾通りもあり、床面積という概念とは異なる無限遠のようなループ性を生む.
各室に面する4面の開口が均一となるよう、各所に可動垂れ壁や可動間仕切りをしのばせ、知覚経験の増幅を図った.
構成の中に、住人がこれまでの人生の中で手に入れ、楽しみ、愛でられてきたモノたちの集積による空間の重なりが生まれ、さながら私設美術館のようだ.
始まった生活をみて、人が住む、住まいとはこういうことだ、と思った.
ひとそれぞれの、その人、その人たちの生きてきた時間という空気のような層を重ねていく場所.
その層の累積をとどめることができる場所.
その層は見た目の派手さや、反対に控えめさといった表層よりも奥にあるものだ.
それは家族という概念とはある部分では別にあるのではないか.
とはいったものの.
現在のところ、一見、1階と2階は異なる世界観の様相であるが、段状を態する2階床面と1階天井面はそれぞれが裏返ったさかさまの関係で表裏一体親子のような関係となっているところが裏テーマでもある.
選択肢.人が生きていく様々な時間軸の中、ルートが知覚・時間・想像に拡がりをもたらしていく構成を考えた.
Photo ToLoLostudio 谷川ヒロシ